うみそらひとことば

みんなの作品と言葉を貼り付けます! 私の写真も載せます!

銭湯と浩三さんと失恋

 

 今日も、浩三さんの詩を取り上げてみます。「麦」という詩です。

 

  

 

銭湯へゆく

麦畑をとおる

オムレツ形の月

大きな暈(かさ)をきて

ひとりぼっち

熟れた麦

強くにおう

かのおなごのにおい

チイチイと胸に鳴く

かのおなごは

いってしまった

あきらめておくれと

いってしまった

麦の穂を噛(か)み噛み

チイチイと胸に鳴く

 

 チイチイと胸に鳴くのはトリですか? 女ですか?

それとも、浩三さんの心ですか? 失恋で悲しいのか?

 

 

 つづけて、こんな詩もあります。

 

  あきらめろと言うが

 

かの女を 人は あきらめろと言うが

おんなを 人は かの女だけでないと言うが

おれには 遠くのタニシの鳴き声まで かの女の歌声にきこえ

遠くの汽車の汽笛(きてき)まで かの女の溜息(ためいき)にきこえる

それでも

かの女を 人は あきらめろと言う

 

 人に「あきらめろ」と言われて納得するようでは、それは恋とは言えないな。もっともっとみじめったらしく、イジイジと、いつまでも彼女のことを考えなきゃ、そんなのは恋でもないし、自分で納得するまで「あきらめ」てはいけない。

 

 どうせ、人は、時機がやってくれば、自然に諦めてしまうものなんだ。そして、すぐに新しく好きな人ができてしまうものなんだ。

 

 でも、浩三さんにちゃんとした彼女がいなくて、それは残念でしたね。やがて戦死してしまうのだから、二人の関係はできてないほうがいいし、悲しまなくてすむから、いなくてよかったかもしれない。でも、浩三さんの短い人生で、彼の気持ちを受け止めてくれる女の子がいてくれてもよかったのになあと思う。